『伊勢物語』第12段に取材した作品。物語は、人の娘をさらい武蔵野へ逃げた男が、国守に追われて女を草むらへ置き去りにするが、女は、追手が野に火を放とうとすると「武蔵野は今日はな焼きそ若草のつまもこもれりわれもこもれり」と詠み、捕えられて男と共に連行されたというもの。絵画化されることも多い場面であるが、草むらに隠れる男女と共に、松明をかかげて迫る追手の一団が描かれることが多い。 本図では、草むらに隠れる男女の姿だけを描き、辺りを見回す男の様子が追手の存在を暗示している。あっさりとした筆致で荒涼とした武蔵野の風情が示され、師半古の画風である甘美な叙情性が色濃い作品である。署名の書体は、明治40年制作の「闘草」に似ており、本図録の古径作品のなかでは最も早い時期のものである。古径は、大正11年に再び同じ画題の「むさし乃」を描いている。
『伊勢物語』第12段に取材した作品。物語は、人の娘をさらい武蔵野へ逃げた男が、国守に追われて女を草むらへ置き去りにするが、女は、追手が野に火を放とうとすると「武蔵野は今日はな焼きそ若草のつまもこもれりわれもこもれり」と詠み、捕えられて男と共に連行されたというもの。絵画化されることも多い場面であるが、草むらに隠れる男女と共に、松明をかかげて迫る追手の一団が描かれることが多い。
本図では、草むらに隠れる男女の姿だけを描き、辺りを見回す男の様子が追手の存在を暗示している。あっさりとした筆致で荒涼とした武蔵野の風情が示され、師半古の画風である甘美な叙情性が色濃い作品である。署名の書体は、明治40年制作の「闘草」に似ており、本図録の古径作品のなかでは最も早い時期のものである。古径は、大正11年に再び同じ画題の「むさし乃」を描いている。