鎌倉時代(13世紀)の絵巻物「一遍上人絵伝」第4巻第3段に描かれた“備前福岡の市”に取材した作品。絵巻は、鎌倉時代の僧で時宗の開祖一遍の伝記を描いたもので、第3段は、弘安元年(1278)冬に福岡の市で一遍が襲われる場面であるが、そこにみられる市の様子は当時のままに描かれたものといわれ、中世の市の形態を示す貴重な資料とされている。 本図では、中世の市場を舞台に、そこに集う庶民の暮らしぶりが描かれている。転がった酒壺や出店は“福岡の市”からの引用であるが、人物の表現には青邨の個性も窺われる。子供たちは菓子に目を奪われ、男たちが魚屋で品定めをしている隙に、犬がこっそり魚を狙っている。牛の背にもたれた老人は片目をつぶり、こちらに向かってウインクをしているかのようだ。絵巻を彷彿とさせる活性と確かな描写のなかにも、青邨の茶目っ気が感じられる作品である。 青邨は、明治43年の第11回紅児会展に「市」を出品した。これが紅児会への初出品である。当時紅児会のパトロン的存在だった川上五郎の談によると、この作品は川上が購入したという。本図は、署名の書体が明治44年制作の「竹取」と似ており、画風は縦幅の下半分に絵巻風に図をまとめる、いわゆる紅児会風であることから、紅児会展出品の「市」に該当するものと思われる。
鎌倉時代(13世紀)の絵巻物「一遍上人絵伝」第4巻第3段に描かれた“備前福岡の市”に取材した作品。絵巻は、鎌倉時代の僧で時宗の開祖一遍の伝記を描いたもので、第3段は、弘安元年(1278)冬に福岡の市で一遍が襲われる場面であるが、そこにみられる市の様子は当時のままに描かれたものといわれ、中世の市の形態を示す貴重な資料とされている。
本図では、中世の市場を舞台に、そこに集う庶民の暮らしぶりが描かれている。転がった酒壺や出店は“福岡の市”からの引用であるが、人物の表現には青邨の個性も窺われる。子供たちは菓子に目を奪われ、男たちが魚屋で品定めをしている隙に、犬がこっそり魚を狙っている。牛の背にもたれた老人は片目をつぶり、こちらに向かってウインクをしているかのようだ。絵巻を彷彿とさせる活性と確かな描写のなかにも、青邨の茶目っ気が感じられる作品である。
青邨は、明治43年の第11回紅児会展に「市」を出品した。これが紅児会への初出品である。当時紅児会のパトロン的存在だった川上五郎の談によると、この作品は川上が購入したという。本図は、署名の書体が明治44年制作の「竹取」と似ており、画風は縦幅の下半分に絵巻風に図をまとめる、いわゆる紅児会風であることから、紅児会展出品の「市」に該当するものと思われる。